昨年(2023年)のGKB48教育カンファレンス参加者から、静岡県立伊豆伊東高校の授業で、地域の課題への積極的に取り組んでいる事例をご紹介いただき、担当のビジネスマネジメント科の米山圭一郎先生にインタビューを行いました。米山先生は、生徒を毎年ビジネスプランコンテストに入賞させるという実績を持ち、その活躍は多くのマスコミで報道されています。地域の問題解決や地域創生につながった「課題研究」の指導と歩みについて、オンラインで伺いました。(取材:学校広報ソーシャルメディア活用勉強会 事務局、取材日:2024年9月27日、文:今野京)
――2023年度日本政策金融公庫主催「高校生ビジネスプラン・グランプリ」審査員特別賞(3位相当)を受賞していること(※1)を複数のニュースで拝見しました。このグランプリは全国からの応募件数が5014件、参加高校は505校と非常に多く、難易度の高いものです。入賞したビジネスプラン「全国に広げよう!ヤングケアラーの輪」で試験実施された「子ども食堂」は、その後地元企業によってビジネスとして展開されていると知り、どんなご指導をされているのか大変興味を持ちました。
※1:2023年度第11回「創造力、無限大∞ 高校生ビジネスプラン・グランプリ」開催結果
米山先生(以下、米山) 今回の「全国に広げよう!ヤングケアラーの輪」のヤングケアラーは、生徒の一人が実体験したものです。この問題を三人の生徒が「課題研究」として取り組み、三人で発表しました。この日本政策金融公庫主催のコンテストには2014年(第2回)が初参加で、翌年(第3回)から現在まで複数のプランが連続で入賞しています。(冒頭写真は、2023年度日本政策金融公庫主催「高校生ビジネスプラン・グランプリ」で、伊豆伊東高校が審査員特別賞を受賞した時の様子。左端が米山先生 )
ビジコン参加で生徒の主体性が向上
――「課題研究」の授業の成果がビジコンで毎年評価されているとは、素晴らしいですね。
米山 すぐ成果が出せたわけではありません。順を追ってお話ししますと、今から30年ほど前、伊東商業高校(2023年に伊豆伊東高校と合併)に勤務していた当時「地域の発展のためにどうすればよいか」について、市役所の方などの協力を得て部活動の一環として「生徒研究論文」の作成指導を行いました。その後、各地を異動し伊東商業高校に戻ってきてしばらくした2013年ごろ3年生の課題研究の授業の一つとして「生活に役立つ経済学」という授業名で地域課題に取り組みました。
――「総合的な探究」の流れよりかなり早い段階から「課題研究」に取り組まれていたのですね。
米山 もともと「実際に地域の課題を解決したい」という思いがあり、市役所の方ともその課題に長年向き合ってきました。地域の課題を高校の教育として掘り下げた「課題研究」は、ビジコンに出場することで実現化に近づくと考え、2014年に県で開催された「高校生ひらめき・つなげるプロジェクト」に応募したところ教育長賞を獲得しました。そこから、指導を工夫すればもっといい結果を出せると考え、次は日本政策金融公庫のビジネスプランコンテストに、とハードルをあげたところ、このような成果を上げることができました。
アントレプレナーシップ(起業家精神)教育の現場
――昨今、主体的な授業が教育現場で求められていますが、「生徒がテーマを見つけられない」「探究が持続しない」など、よく耳にします。具体的にどんな指導をされているのですか。
米山 「課題研究」の授業は、ビジネスマネジメント科3年生の選択授業です。今年は、一学年80人のところ、20人が選択しました。最初の4月は、生徒たちは何から手を付けてよいか全然わからないので、まず企業や自治体に授業として講演を依頼しています。そこで地域の課題となるテーマに出会ったり、市の課題をもらったりします。
高校生の発想は豊かですが、ビジネスプランにするまでは、内容を詰めなければなりません。そのため9月開催のビジコンに参加するまでに、実際に企業や自治体と話し合いをしますが、生徒にはそのアポ取りから自分たちで行うように指導しています。
プランが具体化するまでに「試験実施を行う」ことにこだわっていますので、生徒が授業のない夏休みの7~8月に企業や自治体に試験実地の現場として協力を得る必要があります。またビジネスとして、その商品やサービスにどれだけの人がお金出してくれるのか、スキームを作成することが実際にビジネスとして成り立つかどうかがポイントですから、ビジネスプランのスキーム図作成には一番力を入れています。外部の協力、日本政策金融公庫の職員による出張授業を毎年継続していることや主体的に行動する生徒の取り組み姿勢が積み重なって受賞につながっているのだと思います。
――そのような指導だと「やらされ感」はなくなりますね。12年継続して自治体や企業から協力得られていること自体が実績ですし、信頼もあるのでしょう。プランが事業化(※2)される理由も納得できます。
※2: 来店客が一口100円を寄付 10口で子ども1回分の食事を無料提供 高校生が考案したビジネスプランが事業化 静岡・伊豆伊東高校(静岡朝日テレビ・2024年6月15日掲載)
プレスリリース年間50本の効果と成果
――「子ども食堂」の受賞をはじめ、「課題研究」の取り組みや発表後の事業については、ニュース番組やさまざまな記事で数多く報道されています。
米山 実はPR活動に力を入れています。私が毎年プレスリリースを50本ぐらい作っています。報道で取り上げていただくと、自分たちがやっていることが社会に貢献できると認知されますので、生徒たちも指導する側もモチベーションが上がります。企業は、受賞したプランを商品化(※3)した際に売れ行きが違ってきますし、自治体もコンテストでの成果を広く知ってもらえることで連携するメリットと受け止められ、結果的には信頼にも繋がっていくと感じています。
※3:2021年に地元の食材を活用してメーカーと開発した商品「伊豆ニューサマーオレンジ ラングドシャ」が大賞を受賞
――広報にも力を入れていたのですね。放映された後の反響や生徒募集への効果はいかがでしょうか。
米山 企業や自治体、大学から、連携のお声がけは増えています。また、伊豆伊東高校には普通科と私が担当するビジネスマネジメント科の2つの学科がありますが、ビジネスマネジメント科の入試倍率が増えました。また、生徒がつくったビジネスプランは、「子ども食堂」もそうですが、企業等に事業として継承されるケースも出ています。最近は、卒業生も地元で実際起業しました。一人でも多く、地域の課題解決や地方創生に貢献してくれることを願っています。
――生徒と取り組んだ「課題研究」がまさに地方創生につながりつつあるわけですね。
本日はありがとうございました。