桜美林大学は東京都町田市に本部を置く、在学生数1万人強の私立大学です。リベラルアーツを基盤に、学群制やキャンパスの拠点化など、独自の教育改革を重ねてきました。学長は2018年就任し、現在3期目・8年目となる畑山浩昭氏。鹿児島県出身、桜美林大学を卒業後、公立高校教員、二度のアメリカ留学を経て、母校の大学運営の中枢を担ってきました。またSNSでは大学の取り組み、学生の活躍に加え、趣味やペットの話題も織り交ぜながら発信を続けています。本インタビューでは、桜美林大学の改革の歩みとともに、大学を率いる立場から見た高等教育の現在地、そして畑山学長自身の原点について、話を伺いました。
(インタビュアー:学校広報ソーシャルメディア活用勉強会(GKB48)事務局長 山下研一、取材日:2026年1月26日)

山下 ここ10年ほどで、日本の大学改革は大きく動いてきたと思います。そのなかで、桜美林大学は学群の開設など、比較的早い段階からいろいろな取り組みを進めてきた印象があります。また、畑山先生ご自身が前に出て発信されている点も含めて、大学の特長やモットーと結びついた動きのように感じています。

畑山学長(以下、畑山) 私が大学に入職したのが1997年で、大学設置基準の大綱化の後でした。大学が、自分たちの考え方で教育課程を編成してよい、という流れになった時期だったと思います。それまでの、学部・学科という縦の発想で教育する考え方から、学生主体の学習という発想に切り替えていきました。先生が学生を教育するという視点ではなく、学生が大学で学ぶという視点です。そのときに、桜美林でもそれまでの「ところてん式」カリキュラムはやめよう、という話になりました。

 学生の視点からカリキュラムを組み替えたらどうなるかを考えて、一般教養と専門教育という区分を、基礎学習・専攻学習・自由学習という区分に変えました。そうなると、学部・学科だけのリソースでは足りないので、学部を超えて学べるようにしよう、という話になります。学生が自分で基礎を学び、専攻を学び、自由に学習する、そしてその組み合わせを、体系的な学修として大学全体で認めようとなったのです。この発想自体は私が来た時点で、すでに本学にあって、元理事長の故・佐藤東洋士先生たちが考えてきたものです。

リベラルアーツ学群の創設へ

畑山 大学創立当初(1966年)は、文学部の英語英米文学科・中国語中国文学科、それから経済学部の経済学科と商学科、それくらいの規模でした。その後、国際学部を開設(1989年)、短期大学の生活文化学科を閉じる時に、文学部の中に総合文化学科、健康心理学科、言語コミュニケーション学科を足しました。その後自由学習だけでは、学びの成果として学生が持つ「塊」が見えにくい、という課題が出てきたので、リベラルアーツをやろうという話になったのです。

 アメリカのリベラルアーツカレッジなどを参考にして、主専攻・副専攻というパッケージを作り、学生がそれらを選んで学んでいく制度を作りました。学群としては、文学部・国際学部・経済学部を合わせて、人文社会、国際、数理、自然科学まで含めたリベラルアーツ学群を2007年に設置しました。結果として、収容定員950人、4学年で4000人規模の学群になったのです。

桜美林大学のリベラルアーツ学群の学び

分散でなく拠点化

畑山 その一方で、2005年頃、中教審より「大学の機能別分化」が打ち出されていました。大学ごとに役割をはっきりさせる、という流れです。本学でも、総合的なリベラルアーツカレッジを作りながら、経営政策系のビジネススクール、芸術系のカレッジ、健康科学やスポーツのカレッジ、外国語、航空産業、最近では教育探究科学群を作ってきました。リベラルアーツ学群のように横断・統合的に組み合わせる学びと、必要なものを縦に積み上げていくプロフェッショナルスクール系の学び、この二つを分けて考えてきたということです。

 そうするとキャンパスが手狭になりますから、学びの内容に合わせて、2019年以降、ビジネスマネジメントは新宿、芸術系は東京ひなたやま、航空は多摩、教育探究は駅前にあり利便性の高い淵野辺(相模原)、外国語や健康福祉は町田、大学院は新宿、という形で配置しました。

 当時は「分散化」と言われていましたが、私はその言い方に魅力を感じなかったので、「拠点化」という言葉に統一しました。各キャンパスを拠点として、それぞれ何をやるのかをはっきりさせる。そのときに大事にしたのが、「桜美林がやると、こうなるよね」というカラーです。

 たとえば、ただ芸術の学群を作るのではなく、桜美林が芸術をやると、こういう形になる。他の学群も同じです。桜美林大学として培ってきた価値基準やブランドをもとに、そこから各プロダクトのカラーを作っていく。その考え方を徹底して、今の状態に来ています。結果として定員も増えて、いまは11,000人規模の大学になりました。

山下 ちょうどキャンパスの拠点化をスタートさせた頃が、学長に就任された時期と重なりますか。改めて、かなり大きな大学になりましたね。

畑山 そうですね。学長になってから立ち上げた学群もいくつかありますが、その前から継続している学群もあります。ただキャンパスも増えましたから、急に大きくなったように見えるかもしれませんね。

桜美林大学のキャンパス

大学間では、何が話されているのか

山下 今の大学をどう捉えておられるのか、という点をお聞きしたいです。大学間で、率直な意見交換をされる場というのはあるのでしょうか。

畑山 あります。たとえば学長になってからずっと参加しているのが、「天城学長会議」という会がありますが、国公私立の学長が50人くらい集まって、伊豆で2泊3日、クローズドで議論します。外には出ない場なので、本音がかなり出ます。

山下 一方、今回の中教審による「知の総和」答申ですが、方向性は示されているものの、現場の温度感や切実さが見えにくく感じました。質、アクセスや規模といった言葉は並んでいますが、結局大学関係者の思いは見えにくい印象があります。

畑山 実際にはさまざまな関係者の思いが重なっています。国は、大学に対して「地方創生の知の拠点」として機能してほしいとか、少子化の中で経済力を高める人材育成を担ってほしいとか、さまざまな期待を寄せています。

 一方で、企業側も変わってきました。以前は「人材育成は企業でやるから、大学にはそこまで求めない」という発想もありましたが、技術革新の荒波の中で今は時間もお金も足りない。特に中小企業からは、大学でできるだけ実践力をつけてきてほしい、という声が強くなっています。また、高校の立場からは、高校としての実績作りや高校生に勉強をさせるために、実は大学ランキング等の序列を大幅には崩してほしくないという思いもあります。

大学が「本音」を出しにくい理由

畑山 こうしたなかで、大学へのリクエストは非常にプラグマティック、実務的になっています。国としては、例えば研究については、特定の大学に力を持たせて引っ張ってほしいという思惑がある。国際卓越研究大学の話などもそうです。

 一方で、多くの大学は定員割れという現実を抱えています。今や全体の半分近くが定員割れの状態ですから、まず経営が成り立たないと、やりたいこともできない。そうなると生き残るために「使えるものは使おう」という発想になり、私学の公立化や助成対象の事業等を中心にし、本来の主体的なメッセージはどうしても出しにくくなります。私自身、文科省や大学基準協会、日本高等評価機構、私大協など、いろいろな立場で関わらせて頂いているので、それぞれの機関が何を考えているかは分かります。

山下 非公式にはいろいろな意見があるということですね。

畑山 個人的には、まず「地域に大学が必要だ」という前提をきちんと置くべきだと思っています。学生が集まらないから大学をなくす、という話になると、それは市役所や町役場がなくなるのと同じような話になってしまう。国公私立を問わず、地域に一定の高等教育機関を残す。そのうえで、支援の在り方や役割分担を考える。そうした国家戦略が必要だと思います。

理系重視と大学の役割分担

山下 理系重視、データサイエンス重視の流れについては、どう見ておられますか。

畑山 それは産業構造の問題ですね。アナログからデジタルにシフトした2000年代初頭以降、日本の製造業は厳しくなっています。人口減少の中でやっていくには、AIやIT、ロボティクスに頼らざるを得ない、という状況です。

 ただ国がAI開発を任せるのは、資金も人材も集まるトップレベルの理工系大学でしょう。各大学は、自分の大学の役割を見極めてやればいいだけの話で、一律に同じプログラムを全部の大学でやる必要は全くありません。

 本学の役割は、人文社会系の学生も含めて、AIやデータを使いこなすリテラシーを広げることだと思っています。その一つとして、今「サイバーカレッジ」を構想しています。全学共通で、AI、プログラミングの理解、データ理解、統計などを学べる仕組みです。どのキャンパスにいても受講できる形で、来年度から段階的に始める予定です。

山下 なるほど、どのキャンパスからも受講できるんですね。

グローバル人材と大学院教育

山下 グローバル教育については、最近やや弱まっている印象もあります。

畑山 コロナや国際情勢、円安の影響は非常に大きいですね。今、本学の留学プログラムは、期間を短縮し、プログラム前後の学びをオンラインで補うなど、コストを抑えながら経験を積ませています。ただ本当の意味で、グローバル・マーケットで戦える人材を育てるには、もはや学士課程だけでは限界があって、大学院教育が重要になってきます。そこで初めて、留学の意味が生きてくるのだと思います。

山下 やはり、高いレベルの教育が求められるということですね。

(後編は3月5日頃公開予定です)


桜美林大学 学長 畑山浩昭 氏 プロフィール

1962年鹿児島生まれ、桜美林大学文学部卒業。鹿児島県の高校教諭として働いたのち、米国ノースカロライナ大学シャーロット校大学院修士課程修了(M.A.)、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校大学院博士課程修了(Ph.D.)。マサチューセッツ工科大学大学院修士課程修了(M.B.A.)専門は文学・レトリック学。2006年に桜美林大学教授、その後、学長補佐、基盤教育院長、国際センター長、副学長の役職を歴任。2018年に第5代学長に就任。自身のXでは大学の取り組み、学生の活躍に加え、趣味やペットの話題も織り交ぜながら発信。