GKB48事務局よりお届けする、学校広報の実務に役立つ本や参考になる本の書評、第一弾です。
今回は、野澤直人 著『【小さな会社】逆襲の広報PR術』(すばる舎)をご紹介します。
※本書籍引用時、項目番号として利用されている四角囲み数字については「節」と表記しています。
本書籍は、学校広報担当者の方、特に小規模私立大学の方に、おススメしたい本です。「少人数の部署なので目の前のタスク以上のことをするのはムリ」「学生募集がメイン業務なので、いわゆる『広報』は役立たない」と思っている方にぜひ読んでいただきたい書籍です。
筆者が小規模の大学広報を担当していた経験では、理事長や学長(そして財務担当!)から求められる「広報」は、学校経営に直結する学生募集で結果を出すような「広報」でした(具体的には、高校生・高校の先生、保護者の認知度や信頼度が高まり、結果として学生募集活動に貢献するようなことです)。いわゆる教科書的な「広報」の理論の実践ではありません。
とはいえ、最近では特に「広告」だけでは、紙媒体、WEBにしても、もはや期待するような効果が出なくなっているのも事実。・・・というような悩みに寄りそうのが、この広報PRの書籍だと思います。タイトルに【小さな会社】というキーワードが入っているとおり、著者の野澤直人さんは、雑誌編集者、企業広報を経験し、中小企業やベンチャー企業などの小さい会社の広報PRに熟知したベテランのPRマンです。
ただ、最初にお断りしますが、学校は企業と異なり、商品やサービスを営利を目的に販売することではなく、「教育と研究」を目的としています。ですから書籍(企業の広報PRが前提)の話が全て、大学広報に当てはまるかというと異なるところもあるのですが、考え方としてはかなり参考になるのではないかという立場で書き記します。また学校とは何かという話は、別の機会に取り上げてみて考えたいと思います(文末脚注もご参照ください)。
これからの広報PRは経営戦略に直結する
冒頭の章では「広報PRのパラダイムシフトを見逃すな」として、広報PRの定義が、1990年代以降のマーケティングPR(マーケティング戦略や商品プロモーション施策の一環)から経営戦略(経営課題を解決する手段)に変わってきていると指摘されます。具体的には
広報PRを広告宣伝活動の一環として、記事を買ってまで計画的に実行していくのは、やはり無理がある
(P18)
経営戦略のひとつとして広報PRを捉えて実行することで、より大きく、多様なメリットを享受できるようになる
(P19)
ということ。学生募集はもちろん大学経営に直結する話ですから、まさに広報担当が大学経営のマインドを持ってPRを実施することで効果が出るという話なのです。
まだまだ根強い大学偏差値信仰
とはいえ、時間・おカネの制約もあるなかで、どのように広報PRを実行すれば効果が出るのでしょうか。
大学はたとえ数十年の歴史があったとしても、大学業界全体としては、まだまだ歴史が浅い部類に入ります。いわゆる大学偏差値も低めであるケースも多いし、高校生はもちろん、高校の先生や保護者の認知度も低いことも多いです。どんなによい教育実践をしていたとしても、高校生はネームバリューのある大学、より偏差値が高い大学を選択をしがちです。
高校の先生・保護者にしても、このような選択が子どもの将来にとっても安心または無難、加えて高校の先生については、偏差値が高い大学への進学の方が、高校自身の進学実績につながる、という考え方をしやすいものです。最近、高校で教育改革は進んではいますが、まだまだ偏差値信仰が根強いのは事実です。
広報PRは小規模大学の信用力をカバーする
では、何によって信用を得るかというと、別の信頼のおける第三者による発信情報が多いに役立ちます。新聞やテレビの視聴者が少なめになっていると言っても、記事掲載の事実には力があります。また、そうした事実がSNSなどで、二次拡散されることが多ければ、高校の先生も「頑張っているな」「信用してもいいかも」と思う可能性が高くなります。
この書籍の「『報道実績の二次利用』は営業面でも効果抜群」(第1章3節)でも触れていましたが、自社制作の会社案内やサービス案内の補足として、自社の記事が掲載された新聞や雑誌の記事も紹介することで成約率アップの効果があったそうです。
これを学生募集のケースに置き換えるならば、高校の先生が、その大学が取り組んだ特色のある教育を取り上げた新聞記事などを読んで、「〇〇新聞に取り上げられるような大学の取り組みであれば、信頼してもいいかな」と関心を持ち、生徒さんに勧めてみるというようなことになるでしょうか。
内部広報にも効果があります。「オタクの大学、〇〇新聞に載っていたよね」と他大学の先生や高校の先生から言われることで、言われた教職員自身が自分の大学を再評価することにもなりますし、メディアの記者が記事に掲載してくれたこと自体に「ウチの教育の方向性は新しい時代にマッチしているんだ」と安心することもあり得ます。
メディアにいかに載せてもらうか
小さい企業でもメディアに取り上げてもらうためにはどうすればよいのか、というメディア攻略法についても、本書籍では具体的に遡及しています。ちなみに多くの大学広報担当者はリリースを出していますが、どれくらい打率(リリースがメディアに掲載する確率)を意識しているでしょうか。
本書籍では、いっそ「プレスリリースの一斉配信なんていますぐやめなさい!」(第2章)とまで言い切ります。これはリリース自体を否定するわけではなく、小さい会社が一斉リリース配信をしても大企業に目を奪われるだけで、メディア掲載にはつながりにくいという論理です。
では、小さい組織には勝ち目はないのか? そこで出てくるのが、メディアリストの構築であり、メディアリレーションです。
過去に取材されたとき、または勉強会や何かの機会で知り合った記者の名刺に記載されたメールは、うまく利用しているでしょうか。または教育関連記事に注力している記者に連絡、またはSNS検索でアプローチすれば連絡も取りやすいかもしれません。また地方にある大学であれば、地方新聞記者には、ぐっと連絡は取りやすくなります。メディアリレーションは、慣れないうちは簡単ではないと思いますが、まずはできるところからやってみるだけで変わってくると思います。
その他、「ゲリラ的広報PR秘蔵ノウハウ50連発」(第4章)では
「プレスリリースをパクるが勝ち」(23節)
「『いま感』を出して旬の話題にする」(27節)
「自社イベントをマスコミに取材してもらう方法」(31節)
など、「なるほど、ここまでやるか」と思うものや、筆者自身も大学広報担当時代は「確かにこれをやっていたな」と思うものなど、惜しみなくわかりやすくアドバイスされています。
具体的に「〇〇記者に振り向いてもらいたい」というような気持ちで、リリースを書いたり、企画案をメールしたりなどをすると、ぐっとその記者との距離感が縮められると思います。相手(記者)の立場になって自分の大学の発信やリリースを吟味すると、冷静に判断できるかもしれません。
経営戦略としてのPR
「これからの時代、より重要になる”企業広報”」(第4章35節)では、
(P.239)
消費者が商品・サービスの購買基準として、その性能や価格ではなく、企業や社長の姿勢・人格を重視するようになってきている
とありました。大学では、理事長、学長をはじめとした役職者のメッセージが、大学のイメージアップに効果があるかもしれません。また他大学でのメッセージの発信で参考の収集、ライバル大学の発信の観点などの分析などにより、自分の大学の強み発見につながるかもしれません。
エリアによっては、「地方メディアから全国的なブームを起こす」(第4章49節)も参考になりそうです。ポイントは、ネタによっては横展開することが可能ということ。書籍では、ある企業の被災地支援を取り組みを全国20校以上の中学・高校の文化祭などに横展開し、各地で広報PR活動を行った事例が紹介されています。産学連携・地域連携でここまでできると、まさにwinwinの関係になります。
発信目標や評価をどうするか
最後に印象に残ったのは、「『広告換算での評価』だけではもう古い」(第4章34節)です。
「広告換算」自体は客観的な数値なので、資料としては参考になりますが、具体的な数値目標や評価の数値にするには、特に小さめの大学だとピンと来ないかもしれません。ではどうするか、ということで紹介されていたのが、「全国紙で〇回、大手雑誌で〇回、全国放送のテレビ番組で〇回」という目標設定です。地方だったら、地方新聞やテレビで〇回というのも意味があるでしょう。
ライバル会社を参考に指標を決めることも推奨されていますので、ベンチマークにするような大学の露出度を参考にすることも役立つかもしれません。
最後に
小規模大学が広報PRに力を入れる意味を本書籍の紹介を通じて述べてきました。
もちろん広報PRだけでなく、大学の教育やサービスに磨きをかけること、何をどういうヒトにどう届けるのかという対面販売(プロモーション)、つまり高校訪問も並行して積極的に行う必要があります。こうした努力を行うことで、募集成果を含め、広報PRの効果がより出てきやすくなりますし、内部的にもその努力が評価されることになります。担当部署が連携しあって効果を出し、よいところを評価しあうような組織を目指したいものです。
注)小規模大学としては、在籍者数4000人未満の大学を想定。小規模大学といっても、どんなに在籍者数が少ないといえども教職員・学生を合わせれば、けっして小さくありません。企業と何が違うかといえば、学校は非営利組織だということです。NPOと同じなのです。
学生募集にはマーケティングを検討する必要がありますが、このあたりのマーケティングについてはフィリップ・コトラーの『非営利組織のマーケティング』が参考になります。このことを頭の片隅に置きながら、企業広報の本を読むと「違いや違和感」だけでなく、参考になること、応用できることが見えてきます。
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